「そんなことはございませんよお嬢様。
これほど情熱的で、それでいて愛らしい毛色は他にございません。」
アネリの呟きに素早く反応したのは、いつの間にか背後に待機していたパーシバルだった。
鏡に映る彼は使用人らしくないラフなシャツとスラックスと、サスペンダー姿。
彼だけはどこから、他の使用人達とは違い一線を越えているらしい。
違いといえばもうひとつ。
「それが嫌なの。あたし自身は情熱的でもなければ愛らしくもないもの。」
「何をおっしゃいますか!
お嬢様は例えるならば、たおやかに野に咲くポピーの花。
成熟しきらぬそのお姿もまた繊細で愛らしいのです。」
「………………。」
とろけそうな笑顔でアネリお嬢様への愛を熱弁するその姿は、さっきまでの彼とはまったくの別人だ。
バスルームでのパーシバルが忠犬ドーベルマンだとするなら、今のパーシバルは常に尻尾を振りまくる柴犬といったところ。
それくらいに、雰囲気が別物だった。



