森に生える木の枝の上に、器用に身体を丸めて座る人物がいた。
その手に持っているのは双眼鏡。それも軍人が使用するような特殊加工がされた、ごつい物。
双眼鏡を覗く不審な人物。
レンズの向こうにいるのは、九死に一生を得たアネリと、彼女を救ったパーシバルの姿。
アネリの無事な顔を見たとたん、
「……ッ…………!」
不審人物は、憎らしげに歯を食いしばった。
ぎりぎりぎり…と聞くにたえない音を立て、続いて薄く開いた唇から悪意のこもった呟きをもらす。
「…人殺しが。のうのうと生きやがって…。
贖罪(しょくざい)のチャンスを与えてやったというのに…。」
低く唸るような男の声。
だがその声を聞き取った者はいなかった。
ただ森に生える植物だけ。
男の正体は、まだ分からない。



