遂に堪忍袋の緒が切れた川井出は、おもむろにソフトキャンディを鷲掴むと立ち上がり、アリスに向けて思い切り投げつけた――。
鈍い音でアリスの右肩に当たり、床へ落ちるソフトキャンディ。手で肩を払い、動ずる様子もなく川井出に鋭い視線を向けるアリス――この態度が、余計に川井出の神経を逆撫でした――。
「テメェ、ふざけんじゃねぇよ。悪いのは明らかにアンタだろうがっ、悪い事したら素直に謝るのが筋だろうがっ――アイドルだからって大目に見るとでも思ってんのかこの野郎っ」
「ふっ――」
「チッ、がっかりだよ。俺の中1の息子はアンタが一番好きって言って、この間出たアルバムもやっとの思いでプレミアム限定盤を手に入れて喜んで――――高2の娘だって、アンタらが目標で憧れだって言ってさ。それが、本人が万引きして、反省する気がないならもう、警察呼ぶしかないね――」
川井出はそう言うと、諦めた様に深々とソファーに身を沈めた。
「土下座――」
そんな行為が頭を過る。何としても警察沙汰は避けなければならない。
膨れっ面で謝らないアリス――私が謝罪するしかない――。



