倉庫の一画に「喫煙室」とプレートが貼られ、簡単にパーティションで壁が仕切られた小部屋に、男は荒々しくドアを開け入ってゆく。
「シュッ」
ライターの着火音の後、筒抜けの天井からは白い煙が立ち上がり、揺らめいて倉庫へと広がる。
「先に気づいたら、アンタが出せよ。正規の休憩時間でもないのに何度もタバコ吸いやがって――」
助けに入る事もなく、ただ一部始終を見ていた他の社員やパート達の恨みにも似た心の声と視線が喫煙室を突き刺す――しかし、それもつかの間で、「いつもの事」と諦めの空気を倉庫内に吐き出し、売場へ散る傍観者達――。
怒号を浴びせられた女性は唇を噛み、悔しさを顔に滲ませ、重いパルテナを引き摺りながら売場へ消えた――。
寒気がした――この光景が、今の「全て」を象徴しているのか――。
重く冷たいスチールのドアを開け、階段を上がる。皆、目が血走って普通じゃない――踊り場で立ち止まる。
「帰りたい――」
再び上がり始める。私もアリスも、あの女性みたいに怒号を浴びせられるのだろう――でも、逃げられない。深呼吸し、目の前のドアを開けた――。



