アイ・ドール


 希少石なる水晶の涙の煌めき――辞める理由なんて何もない。この涙こそ、万希子さんの人格であり、個性であり、他のメンバーにない最大の「武器」なのだ――。



「舞さん、心配をかけてしまって申し訳ありませんでした。私、やっとわかりました――舞さんや皆に励まされて、共に悩み、理解し、喜び合えるかけがえのない仲間がいて、私は一人じゃないんだって。私、辞めません。もう、辞めるなんて言いません――舞さんの気持ち、嬉しかったです。本当にありがとうございました――」


 輪を解く様に進み出て、力強い決意を込めて万希子さんは私に深く一礼した――。



 爽やかな空気が循環している――。




「マイマイっ――」

 穏やかな気流を乱しながら唯一、輪に加わっていなかった葵が血相を変えて走って来る――私の前で止まると、膝頭に両手を突き、乱れた呼吸を整え、男を惑わすあの瞳で私を見上げる。



「マッ、マイマイっ――やっちゃったんだってぇ」

 困惑するメンバー。


 誰も私の犯した行為を知らない筈――エレベータホールからここへは、あのブースを通らずに来られる。しかし、葵は知っている様だった。