アイ・ドール


「舞さん――」

「流花さん、雪ちゃん――」




「私――」



「辞めます――」


 静かに防音ドアを開け、私達に一礼し言うと、意を決したかの様に駆け出してゆく万希子さん――長い艶やかな髪がなびき、仄かに広がるトリートメントの香りと、切ない想いが残される――。



「待って、万希子さん――」

 流花と雪が叫び、再び手に持っていたドーナツを投げ捨てて、万希子さんの後を追う――。


 私は立ち尽くしているだけだった――万希子さんの思わぬ行動に驚き、体が動かなかった。

 ディレクターはどうしていいかわからず、訳もなく手元のレバーやスイッチを弄る――。



「ちっ――」面倒だなぁ――そんな意図が込められた舌打ちが聞こえた――。


 高飛車で傲慢で、苛つくプロデューサーの振る舞いに遂に私の怒りは頂点に達し、ストレートな感情が溢れ出した。



「ちょっと今、舌打ちしたでしょう。何なんですか、人の気持ちも考えずによくもあんなにひどい事が言えたものね――あなたこそ、わかった様な口利いて偉そうに文句ばかり言って――クズ人間はあなたの方じゃないかしら――」



「――――」