アイ・ドール


「ええと、確か高樹 舞さんとか言ったよね――あのねぇ、おたくに業界の事なんて何にもわからないんだから口出ししないでくれないかな――こっちはさ、もう何十年もこの世界でやってんの」

「ったく、たかが1ヶ月位でわかった様な顔で偉そうにしゃしゃり出んなっつうの、素人のくせにっ――俺の指示に従ってれば間違いないっつうのに、たかがマネージャーごときにあれこれ言われたくねぇんだよ――」



「確かに、私は音楽も業界の事も、誰がどう偉いのかも知りません――でも、万希子さんはあなたの指示を理解しようと、何とか期待に応えようと悩んで、苦しんでいるじゃないですか。それなのに、クズで無能呼ばわりなんて――まるで見世物じゃないですか、怒鳴って追い詰めて――これが指示と言えるんですか。こんな事しても万希子さんが余計に落ち込んでゆくのがわからないんですか」


「はぁ、だから女は面倒なんだよなぁ――あのねぇ、たかがこれ位の事、この世界では当たり前なんだよ。それに打ち勝って前に進むのが頂点を極めるって事なの――進めないなら、消えるしかないんだよ。実際、あそこで踞って動かない彼女はもうダメなんじゃねぇの――」