歌なんて聴いてもいなかった――「どう」と問われても私にわかる訳もなく、もっともらしい事を言い、場を取り繕った。
本心でない答えにも、モカは満面の笑みを湛えモコとはしゃぎ出す。
「――――」
何となく、ここにいるのが「辛く」なり、私は二人に軽く手を振りブースを出た。かといって何処へ行きたい訳でもない私は、隣のブースの重く冷たいドアを開け中へ入った。
瞬間、モカとモコのはしゃいだブースとは異なる雰囲気を感じた――。
流花と雪はソファーに座っていた――足を組み、録音ルームを心配そうに見つめる流花。上半身を乗り出し、テーブルにあったドーナツをくわえながら、訴える様な目で私を見る雪――。
録音ルームの中では、重苦しい雰囲気を産み出した責任からなのか、下唇を噛み俯いたまま立ち尽くし、苦悩する万希子さんの姿があった――。
「はぁ、上手くいかないなぁ――もう1回いくよ」
ディレクターでもない男の声が苛立ち気味に言うと、万希子さんのパート部分の演奏が流れる――。
「もう1回――」
「もう1度っ――」
何度も同じ箇所で行き詰まる万希子さん。



