あれ程はしゃいでいたモカとモコもヘッドホンを装着し、真剣な眼差しで譜面と対峙している。
この段階で私にできる事は――ない。
ただ、ディレクターの後ろで腕を組み偉そうに立っているか、ソファーに腰を下ろしてモカとモコに「それでいいのよ」と頷く程度の仕草しかできないのだ。
アップテンポな前奏が流れる――仮歌の録音に入った。仮歌収録後、プロデューサーの指導、修正を繰り返し本録りへと進行してゆく――。
いよいよ何もする事がなくなり、ディレクターの後ろで立ち尽くしていた私は、ソファーに座り今日のスケジュールの確認とメンバーの個人情報が記されたファイルに目を通す――。
縁城寺 詩織
（えんじょうじ しおり）
２０歳
ヴィーラヴのリーダーを務め、個性的なメンバーを束ねる――面倒見が良く、意志の強さで皆から頼りにされている。万希子さんと特に仲が良く、何でも話し合える間柄――。
綾瀬 流花
（あやせ るか）
１８歳
ダンスパートを牽引する中心的存在であり、勝気な性格と前向きな行動力で特に女性層からの支持が高い――時折、凍りつくダジャレを放つ事も――。
