アイ・ドール


 母親の様に二人をあやしつつ、私も小走りで駆け出す――。




 今日から、ファーストアルバムのレコーディングが始まる。モカとモコがはしゃぐのも無理もない。二人のユニットによる楽曲がアルバムに収録される為だ――。



 ヴィーラヴには、彼女らを選抜し、コンセプトを築き、楽曲を提供するプロデューサーが存在するが、正体は非公開になっている――――。


 業界内では、あのアーティストだの、ビジュアル系バンドのヴォーカルが本命だのと、様々な人物の名前が取り沙汰されては消えゆく――――。


 社長は、クオリティの高い楽曲を安定的かつ効果的に生産できれば、プロデューサーが誰であるかなど意味はないと、私にも、ヴィーラヴにも正体を明らかにしていない。




 レコーディングブースの分厚いドアを開けると二人は絡んだ腕を解き、その先にある録音ルームの防音ドアを勢い良く開け中に入ってゆく――。


 二人とを防音ガラスで隔てているこちら側には、録音状況をモニターするディスプレイや、私には到底使い方のわからない沢山のスイッチとレバーが並び、慣れた動作でディレクターが微調整を繰り返している――。