アイ・ドール


 あらゆる企業がヴィーラヴという「蜜」に群がり、彼女達を目にしない媒体は存在しなくなりつつあった――。


 彼女達の楽曲を聴き――

 映像を楽しみ――

 彼女らの言葉の誘惑にまんまと乗り――


 同じ食品を食べ――

 同じ服を着て――

 同じ化粧を施し――

 同じ宝飾品を身に纏い――

 同じ車に乗り――

 果ては、己の人生までも、彼女達が紡ぎ出し、企業らの思惑が内在した偽世界を盲目的に生活に組み入れ、周りと同化する事で互いに共同体を形成し、疎外される事のない安心感を得てゆく――。



 企業も「必死」だ――同業他社の宣伝はできないという「掟」を破ってまで、彼女達を求めた。

 その結果、モカとモコがA社の、葵がB社のそれぞれのチョコレートを可愛らしく宣伝している――。


 生き残る為、利益を得る為に企業、会社の上層部は何でもする――たとえ、社員の「血」がどれ程流れようとも――。


 社長は知っていたのだろう。「カネ」になる彼女達に擦り寄る企業らを飼い慣らし、企業は「同化者」達から収益なる「種」を摘み取る――社長は労せずして、たわわに実った果実を味わう――。