アイ・ドール


秘書の勧めを無視して私の躰は「本能的」に床から天井まで達するガラスウォールに吸い寄せられる――。


向かいには、井上―ペターゼン―礼子が「支配」する「ファーストタワー」が相対する――。


ヴィーラヴが「表」に出過ぎている為に、ドロシーエンタープライズの利益の8割が金融、投資、不動産事業で占められている事は「意外に」知られていない――。


浮遊感を伴う興奮と、地に足がついていない不安が入り交じる――。


気持ちが定まらない中で視線を「下界」に移す――。


人、車が普段見た事のない角度で歩き、走る――。


ぼんやりそれらを見つめていると、地面に吸い込まれそうになり、平衡感覚が消失しそうになる――。




「遅いな――舞――」


ふと呟いた――。






『わぁっっ――』


背後から声がすると同時に抱きつかれ、勢い余ってガラスウォールに躰が触れる――。


「落ちる――」


本能が言ったが無論、そんな事がある筈もない――。


「んもぅ、モコっちモカっち何やってんの――夢っちがびっくりしてんじゃん――」


少女とは思えない力で私、モカ、モコをガラスウォールから引き離す人物――アリスだった――。