アイ・ドール


引き返そうか――。


後ろ向きな感情が滲む――。


しかし遅かった――私の思いを「断罪」したエレベーターは既に指定されたフロアに到着し、扉は開かれている――。


「夢ノ夢子様ですね――お待ちしておりました――」


モデル、或いは女優――待ち構えていた女性は、淑やかな声と仕草で私に言った――。


何だろうこの女性は――この「眩しい」女性は――。


私の心は慌てる――が、女性に「弱み」を悟られまいと瞬時に、懸命に自我を取り戻す――。


彼女が秘書だという事は「普通」に考えばすぐにわかる筈なのに――。


「社長室へ御案内致します――」


細身の躰――括れた腰――引き締まった脚線美――上質なスーツスタイル――。


それに比べ、私の格好は――スーツを「纏っている」とはいえ「擬装感」は否めない――。


「こちらでお待ち下さい――」


秘書が重厚な木製のドアを開け、私を室内へと誘導する――。


異空間に「侵入」した――。


「社長は少し遅れて参りますので、ソファーにかけて御寛ぎ下さい――」


そう言って秘書はドアを閉める――。




「――――」


広く静かな空間――。


下界の喧騒が「浄化」された、清浄なる世界――。