アイ・ドール


会場内で、グッズの販売が開始された――――群がる偽人達――修羅場の場内――。


悲鳴と怒号――――歓喜の声と子供の泣き声――最終公演ともなると、一層それらが増幅され、「地獄絵図」に拍車がかかる――――。




「慌てないで下さい――――」


「押さないで下さい――――」


「順番に――並んで下さい――――」



鳶職達に怒鳴られた人種とは異なる労働者達の注意にも、偽人達は耳を貸す事もなく、我先にと私のアイドール達の量産果実を貪る――――。


入手困難さ故に、「ブラックチケット」なる称号を与えられた紙切れを得た者達の狂乱は、全てのグッズが完売した後も冷える事はなかった――――。


会社を辞め、全会場、全公演を見届ける、「巡礼者」も少なくないという――――。





開場時間となり、ドーム内になだれ込む偽人達――頭に鉢巻き、きらびやかな刺繍が施された法被を羽織り、色とりどりのサイリウムを光らせ、お気に入りのメンバーが印刷された団扇を振り、早くも声援を送るアリーナ席に陣取る狂信集団――その声援が、ドーム全体に共振し、控え室のアイドールや私の躰を揺さぶる――。