アイ・ドール


「シフォンって名前、嫌いだった――――でも、デビューの為に嫌な想いを封じた。心の中にシフォンを閉じ込め、歌姫として振る舞ってきた。ワタシはシフォンじゃない、橋本 明子なんだ――って、いつもシフォンに言い聞かせていた――」


 啜り泣く明子――。


「でも、シフォンはワタシに悟られない様に、ワタシの苦悩を糧としてシフォンの自我を育てていた――――そしてある時、ワタシとシフォンの自我が入れ替わった――その事にワタシの自我は気づかないままに、シフォンをワタシと認識して、こ、こんなにも醜い人間に成り下がってしまったんです――それから皆、腫れ物に触る様な態度で――――ワタシって、何だったんでしょう――馬鹿みたい――」


「恐ろしい話ね――手遅れにならなくて良かったわ。明子さんは、自我を取り戻したのだから――」


「嬉しい――ありがとう高樹さん。私を救ってくれて――」


 とめどなく流れる自我を取り戻した涙に、毒素は含まれていない――。


「私はきっかけに過ぎないわ――明子さんを救ったのはきっと、マネージャーさんやスタッフ達の明子さんに対する想いじゃないかしら。私はそう思う――」