「嫌――――」
「嫌――嫌――そんなの嫌――――」
小刻みに首を振る明子――。
「嫌っ、シフォンに戻りたくないっ――――嫌、嫌よっ――」
激しく叫び、躰を動かして椅子から落ち床にへたる明子の上半身を起こし、私の胸元に引き寄せて優しく抱いた――。
「楽になりなさい。やり直すの、橋本 明子の人生を――」
「ワタシ、もうこの世界にいなくていいのね――」
私の胸の中で縋り、呟く――。
「毎日が辛く、苦しかった――――もっと売れる曲を作れとか急かされて――」
「その辛く、苦しい明子さんの想いを利用して取り憑いたのが、シフォンという偽人よ――」
意地らしく吐露する明子の艶やかな髪を撫でた――。
「反対したんです。橋本 明子のままでは売れないから、シフォンに改名して売り出すって――――本名でデビューしたいって頼んだんです。でも、お前の名前はインパクトがなくて平凡だ――どんなに良い楽曲を歌っても、見向きもされないって言うんです――――ワタシという存在が否定された気がして、寂しく、悔しかった――」
「そうだったの――冷たい人達ね――」



