「シフォンに全てを奪われてしまうわ――」
明子の髪を掻き上げ、右側の耳元に語りかけた――――そして、ゆっくりと体を移動して――――
「今なら、まだ間に合うわ――」
左の耳元で囁き――
「明子さんを救う方法が、たった一つだけあるの――」
そう、右耳に語った。
「その方法でしか、明子さんを救えない――」
素早く移動し、左耳に声を乗せた――。
「た――た、す、け、て――」
擦れた明子の声――。
「た、す、け、て――」
「助けて下さい――」
縋る眼と声で、私に言った――――。
「いいわ――――私が助けてあげる――何も怖がらなくていいの――」
「はい――――」
「ふふっ、とても簡単な事よ――よく聞いて頂戴――――それはね――」
「それは何――――」
「あなたが、この業界を去る事よ――――」
忌々しいシフォンを、完全に明子の魂から追い出すには、頂点から降りて、今いる世界を去る他に道はない――――。
明子の頬に触れた。
「温かい――」
ほっとした様に、柔らかく言う明子――。



