「今、この鏡に映るあなたが明子さんを乗っ取り、心に寄生し、「魂」という甘い蜜を吸い尽くしている明子さん自身が産み出した、もう一人の自分――――それが、偽人という存在よ――――」
「こ、これが――私――――」
蜜に変わって、「苦い」汗が滲み出す――。
「明子さんの魂から出てゆきなさい――シフォン――」
橋本 明子を支配し、蝕み続けていたのはシフォンであった――彼女の中で、明子とシフォンとの境界線が曖昧になり、いつしか崩壊した事により、シフォンが明子の自我を侵食した。シフォンこそが明子で自分なのだと、シフォンの思惑通りに意識の奥底へと、明子の自我は巧みに追いやられた――――。
明子の魂と肉体を奪ったシフォンは、名声と富を貪り、この世の春を謳歌した――人々が目にしていたシフォンは、明子を通してのシフォンではなかったのだ――――。
「このまま、醜いシフォンであり続ければあなた、死ぬわよ――」
私が言った「死」とは、私達が認識している死の概念ではなく、魂の全てをシフォンに喰い尽くされ、完全に明子の自我が消滅する現象を指し、言っている――――。



