アイ・ドール


 私の体から滲み出す強い決意を酌み取ったのか、持っていたカップをゆっくりとテーブルに置いた社長は、とたんに表情を曇らせ、悲しげな瞳で私を見ると重い口を開いて私を誘った真の理由を語り出した――。




「実はね、前のマネージャーが逃げ出してしまって――」


 寂しく呟くと、ソファーの座面に右手をやり、手と指で上質な生地をゆっくりと擦る――――「そう、残念だわ――」と話は終わる筈だったのに――しかし本当なのだろうか、逃げ出したなんて――弄ばれているのか――私は。それが証拠に今は悲しかった瞳をもう涼しげなものに切り替えて私を見ている――。



「デビューの時から一緒に頑張って来たのだけれど、一人一人に個性があるから――いろんな問題もあったけれど、それらも上手くまとめて――これから忙しくなるって時に――――プレッシャーになったのかしら。期待していたのだけれど――」


 私が反応せず黙っていると、低く恨めしい声で社長は最強の切り札を出した――。



「やっぱり駄目ねぇ、男は――耐えられなくなると逃げ出して――舞さんもそう思うでしょう――」


「くっ――」


 心で呟いた――。