アイ・ドール


「えっ――――」

 擦れた声で囁いた明子――「どうして――」と、私に問う様に瞳が焦り、濁る――。



「私が、あなたの真の姿を描いてあげる――」



 私は、嬉しさを噛み殺し言い、唇の端に口紅をあて、力を込めて一気にこめかみにまで紅を引き、何度も塗り重ねた――――反対側も同様に描き、明子の本当の姿が顕になった――。




「これが、本当のあなた――――」


 鏡には、口がこめかみにまで裂けた、肉を食らう獣の様な残忍な顔が映る――。


 私の声に、焦点が定まっていない眼を、鏡に映し出された真の自分の姿と対峙させる明子――。



「くわっ――――」


 眼を剥き出し、口が裂けた獣の顔におののき、白くなっていた肌が、どす黒くゆっくりと変化してゆき、呼吸も乱れ始める――。



「うふっ――――ようやく気づいたわね――」


 背中に手を置き、乱れた明子の呼吸を整えようと優しく擦る。恐怖から逃れようと目線を外そうという行動思考は、背中から伝わってくるが、硬直化した躰と魂がそれを阻んでいる――――。



「可哀想に、怖いのね――――ここに映る自分が――」


「――――」