アイ・ドール


 あんなに傲慢で、人を蔑んでいた明子が、全てを晒され、小動物の様に小刻みに震える――。



「あら、どうしたの――急に顔色が悪くなって、唇もこんなに青紫色に変わって――――」


 欺きを紡ぎ続けた唇に指を這わせ、わざとらしく言った――。



「可哀想に、綺麗な顔が台無しよ――――私が化粧を施してあげる――」


 私は、明子が弄んでいた口紅を取り、唇に押しつけた――――明子は、黙って鏡に映る自分の姿をぼんやりと眺め、抵抗しない――。



 唇の中心を起点に、明子が息苦しくなる程に口紅をあてがい、上唇を塗り潰し、続いて下唇に取りかかる――その間も、明子は動く事もなく、静かだった――――。


 下唇を塗り終えた――血が循環せず、白くなった顔と肌に、深紅の唇が異様に栄え映る――。



「どうかしら、これで少しは人間らしくなったかしら――」


 予想以上の仕上がりに高揚し、声が弾んだ。



 答えがないのは、わかっている――。




「ふふっ、でもね明子さん、この鏡に映るあなたが、真の自分だと思ってはいけないわ――私が施した顔も、明子さんの本当の姿ではまだないのよ――」