アイ・ドール


「でも、もう遅いわね――――結果的に、あなたを守っていた人達は、いなくなってしまったのだから。人を見下し、歌う喜びを忘れ、頂点に安住する事に己の全てを注ぎ込み、怠惰で傲慢で、他人を、自身をも冒涜する愚かな人生になってしまった――」


「――――」


 少し弱気になったシフォンが眼を伏せる――。



「もう――終わりにしたらどうかしら――」


「な、何を終わりにするんだよっ――」



「嫌なんでしょ――今の自分が――――」


「自分が――嫌――――」


「皆の魂を震わせられなくなってしまったのだから、あなたの役割は終わったのよ――もう、頂点に君臨し続ける事に固執して、偽人に操られる必要もないもの――自分の心を、魂を、嘘で築き上げた幻想から解放しましょう――――このまま死ぬ前に――」


 若くして、生涯に何の不安要素もない程に、余りある資産を手に入れたシフォン。これからの人生を思うがままに生きてゆける特権を得た数少ない人種――この世界にしがみつく必然性も、ヴィーラヴの存在で、皆無になった――。



 華やかな舞台を降りて、ゆっくりと心と魂を解きほぐすがいい――――。