アイ・ドール


「お久しぶり、元気だった――」

 社長はチェアを反転させ、しなやかに言った。

「はい――おはようございます――」

「ふふっ――まぁ、そう緊張しないで――」

 そう言うと社長は立ち上がり、私をソファーへと手招きする。


「失礼します――」

 私は、招かれるままに手触りの心地好いファブリックのソファーに腰を下ろす。同時に先程の秘書がドアをノックした。社長が応えると、私達へと静かに歩み寄り、「どうぞ」と芳醇な香りを漂わすコーヒーの入った高級磁器のカップとソーサーを、ガラスのテーブルの上に置いた――。


「どうもすいません」

「そんなに恐縮されなくても良いんですよ――」とでも言いたげに、優しい笑顔で私を気遣った秘書は、私を案内した時と同じ一連の動作で出口へと向かう――。


「ありがとう」と社長が声をかけた――ドアの前で私達に深く一礼し、秘書は静かに退室した――。


 退室を確認すると、社長は私に視線を合わせ、細い足を組んで、懐かしむ様に語り出した。


「初めて逢った頃とは、顔つきが変わってきたわね――勿論、良い方によ」

 にやりと、意味深げな笑みと声色だった――。