「戻ろうとしても、道は閉ざされている――――ここまで歩んだ道しるべは、進む度に消去される。だから、後ろには何もない――故に前を見続けるのよ――」
そう言いながら礼子さんの左腕が私の右腕に触れ、ゆっくりと下へ移動して、手のひらどうしが接触し、握り合い、指が絡まる――。
冷たい空間なのに、温かい礼子さんが私の手のひら、指を伝って心の、魂の芯を温めてゆく――。
「私から舞へ、最高の贈り物――――」
少し恍惚な表情で、より強く前を見つめ、礼子さんの左手が強さを増した。
「何もありませんよ――」
前には何もない――ただ、漆黒の闇を思わせる壁面が私達と対峙しているだけ――。
「感じて――――」
「何も――――」
壁面に変化はない――。
「集中して――聞こえる筈よ――」
目を閉じ、聴覚を研ぎ澄ませるが、不気味な周期音しか聞き取れない――。
「想い、命を感じるの――彼女達の――――」
礼子さんの呪文にかかった様に、私は更に聴覚の精度を上げて、ヴィーラヴを感じようとした――。
「あっ――――」
周期音とは明らかに異なる音源――。



