ミネルヴァの声にも、礼子さんは振り返る事もなく先へ進む――ミネルヴァも言葉を続けようとはしなかった。互いの信頼関係が強固なものであると感じさせる二人のやり取りだった――。
「礼子がどんどん先へ行っちゃうよ、舞ちゃん――」
「わかってるわ――じゃあ、行くから――」
「ええっ、もおぅ行っちゃうのぉ――寂しいなぁ――」
「私は寂しくなんかないわよ――」
礼子さんを追いながら、嫌味っぽくミネルヴァに向け、言った。
「んもぅ、つれないなぁ――けど、そこが好きなんだなぁ。またね舞ちゃん――――あっ、後でボクのメールアドレスを舞ちゃんのスマホに送るから、悩み事があったら24時間相談にのるからね。待ってるよ――――ボクはミネルヴァ、ヴァージョンアルファ。ローマ神話の知恵の女神だよ――って男じゃんボク。ここ、笑うとこだよ――――じゃあね舞ちゃん。愛してるよぉ――――」
薄れてゆくミネルヴァの声に答えず、暑く広大な空間を抜け、再びあの場所に戻る――既に礼子さんは中にいる。ガラスで仕切られた空間には入らず、彼女達が並んでいた場所をじっと見つめ、私を待っている――。



