もう礼子さんはいなかった――既に仕切られた空間を後にして、あの銀色のスライドドアを開放する――――全開を待たずに、ひらりと身をよじらせて擦り抜け空間の外へ出てゆく。
ヴィーラヴがいない殺風景でひんやりとした空間に残される私――――恐れと不安を掻き立てる低く呻く周期音――。
「ま、待って下さい――」
見えなくなった礼子さんの姿を追う――。
「こっちよ――」
意外な程、遠くで聞こえる声――その音色は、持論を展開し、溜まっていた鬱積を吐き出した開放感と、秘密を私と共有した濃い一体感に、何処か悪戯っぽさが加えられたものだった――。
「ここよ――」
セキュリティカードを振りかざし、またも鈍く輝く銀色のドアの前で私を待っている――。
「今度は何ですか――」
わざと歩いて辿り着いた私の問いに答えず、暗証番号を入力し、網膜認証を済ませ、カードをスキャンして「うふ」と礼子さんは笑った――。
警告音を轟かせ、ゆっくりと開放される銀色のドア――――半分程、開放されただけなのに、内部から熱風が吹き、私の髪を揺らした――。
「逢わせたい人がいるの――」



