アイ・ドール


 自分は何て不遇なの――周りの人間達は幸せそうな顔で潤いのある生活を送っているのに――。しかし、それは錯覚――少なからず悩みを抱え、苦しんでいる。彼らから見れば、不遇な筈の自分が幸せそうに映って見える。富を得た者達の世界もそうであると礼子さんは説く。カネを使う事に疲れ、前向きな未来を映し出せなくなってしまう。自らが死を迎え、全てから解放されても、残された者らによる残虐なるカネの奪い合いが展開される――。その光景は、かくも冷徹で狡猾であり不潔で笑えるものなのだ。


 そんな世界に憧れを持たなくてもいい――――今を生きて慎ましく生活している事を喜び、堅実な精神を保ち生きてゆく。人の道とはそうあるべきではと、自嘲気味に言った――。


 互いの世界を羨み、同時に妬む。


 カネを得れば、死ぬまで何不自由なく生きてゆける――カネも名声も得た。が、この世界はあまりに狭く窮屈だった――戻れるなら、普通の世界へ戻りたい――――あの世界には自由と豊富な人生の選択肢がある――。


 羨む世界に想いを馳せる――。


 無一文になって地べたを這いずり、せこせこと底辺でもがき、生きればいい――。