「質を落とせない――世間の、近所の目も絡み、自らも今更馴れ親しんだ環境を手放せない。解放されたいけれど、周りがそれを許さない雰囲気を形成していると思い込む。一種の強迫観念に囚われ、結局は莫大な消費活動を続ける――金持ちの体面は保つ裏で、魂は病み、劣化してゆく――」
「皮肉な事に使ったカネと同額かそれ以上のカネが毎月、口座に入金される。使っても減らない資産――――ならばと、いろんな慈善団体や基金に寄付をしても減る額は僅か。多額な寄付をすれば注目され、やっかみの対象となる――それも嫌だ。まして、息子、娘、親類縁者にカネをバラ撒くなんて事は、ほくそ笑み自堕落な生活を送るであろう近親者達の顔を思い浮かべると腹立たしくなり、選択肢から真っ先に除外される――」
心の底に蓄積した毒を吐く様に礼子さんが語る表情からは、気持ちが静まる気配は見られない――。
「言ったわよね、同じって――そうなのよ。同じ様な車に乗り、住み、着飾り、食べる。狭い世界での見栄の張り合い。毎夜開催されるセレブなパーティーに行ってもいつも同じ人間しかいない退屈な催し。話す話題はカネにまつわる意地汚い話ばかり――」



