分厚いガラスのドアが開き、その先の役員専用エレベータへと歩を進める――何もしていないのに、エレベータの扉が静かに開き、私を迎え入れる。
最上階、45階のボタンを押す――が、いつもの癖で「開」のボタンを押したまま、誰か乗って来る人がいないかと、身を乗り出して周りを確認してしまう――。
昨日までなら、駆け足で乗り込んで来る人がいたが、さすがに役員専用――駆け足になる程、時間に追われている訳ではないのだろう――。
私は、このエレベータの性質を理解し、乗り出した体を「特別」な空間へと引き戻す。扉が閉まり、そこにも差があるのかと思う位に静かに、スムースにエレベータは上昇してゆく――。
「こんなに広かったかしら――」
一人で乗っている空間効率の悪さに、嫌悪感を覚えていると、上昇していたエレベータはショックもなく停止して、「すうっ――」と扉が開く――。
私が昨日までいた、電話が鳴り、大勢の人の声が入り混じり、活気に満ちていたフロアとは別世界な、「無音」の世界が目の前に広がっている――。
ワインレッド色の絨毯が敷き詰められた廊下を心細く進んでゆく――。



