アイ・ドール


「私も踏み込む勇気がなかったのね。心の何処かでエリスに遠慮していた――機会はあったわ。仕事上では、私と彼は戦略的にも利益的にも有効な関係性は継続していたから、私が舞の事を彼の懐に入って訊ねる事ができたなら、舞の生き方も変わっていたかもしれない――」


「父と離婚した母はどうなったんですか――私に父は何も教えてくれなくて――」


「実は私も詳しくは知らないのよ――離婚して本家のあるフィンランドに戻ったとも言われているけれど、何度彼や日本の親族に聞いてもエリスの消息は教えてくれなかったの――」


 視線を落とし、寂しく語った。


「仕事ではパートナーでも、離婚原因やエリスの事は聞いてくれるな――と、訊ねる度に怒鳴られたりもしたわ。私も身を退くしかなかった――まだ物事を動かす力もなく、彼との仕事上の良好な関係を失わない為に黙殺した。嫌な女――女の友情より、カネと権力を優先する汚い女ね」

 自らをなじり、下唇を噛んだ礼子さんが私に歩み寄り、私の躰に縋りつく。



「おかしいでしょう――仕事に私情は挟まないなんて偉そうに言ってこの体たらく――」


 両腕を私の首に絡め、呟く。