アイ・ドール


 何という事か――人間ではない「物体」に私は必死に説得し、涙に心奪われ、ありもしない家庭環境に同情し、カネで真相を隠蔽した挙げ句、得体の知れない肉体に躰を許し恐らくは、快楽の世界に身を委ねた。


 礼子さんが仕組み、観察していた私の行動に合格点を与え、これからもヴィーラヴと歩んで欲しいという願いに私は応えてゆく自信も気力も今はない――。


 ヴィーラヴは、人間ではなかったのだから――。


 互いの思想の起点が、決定的に異なっている。

 そして、滑稽ではないか――戸惑い、右往左往していた姿が――。

 思い返すだけで、恥ずかしく――悔しい。




 殺したい――――。


 ガラスの壁の向こう側で一人づつ、透明なシリンダー状のケースの中で、「生まれ替わる」のを待っている彼女達の筋肉繊維を引き裂き、筋繊維と融合された合金製の関節や頭部を思い切り殴打して、偽物の命を終わらせてやりたいという、私を欺いた代償としての殺意が込み上がる――――。


 その勢いで、何食わぬ顔と涼しい瞳で私の出方を伺っている礼子さんもヴィーラヴと一緒に――――。



「どうしたの、怖い顔をして――」