「待たせてごめんなさい」
電話を終えた社長がソファーに座る。
記者会見が終了した後、大きな案件の仕事の打ち合わせがあると、社長室に呼ばれた――ヴィーラヴは、個人の仕事が幾つか残っているものを消化している――。
「どうしたの――何だかボーッとしている様に見えるけれど――」
「あっ、いいえ――ここまで色々あって、それで――――」
葵と流花との事は、社長には話していない。
「無理もないわね――でも舞さんはとても良くやってくれている。皆、舞さんの働きぶりには関心しているの――やっぱり、私の目に狂いはなかったわ――」
社長の眼差しは鋭いが、不思議と冷たい感覚は伝わってはこない――眼球の裏側に優しさの水を湛えているかの様に、瞳は潤っている――。
「社長にそう言って頂けると、決心した甲斐があります」
「ふふふっ――」
「何か、おかしな事を言いましたか――」
「いいえ、そうじゃないのよ――――それと、社長はもういいわ――これからは、礼子と呼んでもらえるかしら――」
「いいんですか、社長――あっ、いえ――――礼子さん――」
「いいのよ――」



