アイ・ドール


「今までありがとう」

「じゃあね」

『バイバイ』


 それぞれの言葉で、役目を終えた車達にお礼を言い、エレベータホールへと向かうメンバー達。


「楽しかったよ――ありがとね――」


 ちょっぴり寂しげに詩織は呟き、別れの挨拶として、フロントノーズに口づけした――薄らと口紅の色が残る――。



「この子達をよろしくお願いします――」


 少し震えた声の詩織は、振り返る事もなくその場を去ってゆく――――万希子さんが詩織を見届けた後、2台の傷ついた車とディーラーの二人に深く一礼して詩織を追う――。


 以外だったのは、アリスが自分の乗っていた車の後部にいとおしそうに張りつき、亀裂の入ったリアガラスを擦りながら、目を閉じて唇を動かしている――。

 呟きとも違う呪文じみたアリスの仕草。


「んもう、恥ずかしいよぅ――」


 スマートキーを私に投げ、逃げる様に走ってゆくアリスの顔は赤らんで見えた。



「早くっ、マイマイっ」

 アリスの照れた声。


「後は、よろしくお願いします」

「かしこまりました」


 ディーラーの二人に言い、走ってアリスの声を追った――。