アイ・ドール


 時間を置いて2陣、3陣とダミー車両が出てゆく度に「これが本命」と賭けた者達やマスコミが車を取り囲み、追跡する――。


 そして、第4陣――私達がいつも乗っている車両が姿を現すと、裏の裏の裏を読んで残っていた大部分の者達が、「本命」車両に飛びつく――。

 スモークガラスにカメラを押しつけ撮影する者。お気に入りのメンバーの名前を叫びながら、車のボディーや窓ガラスを叩く者――――警察、警備会社が彼らを車から取り払う事1時間弱、ようやく私達の車は追跡を試みようとする車やバイク数台を引き連れて会場を後にした――。

 会場のエントランスホールの照明が落とされ、周辺の灯りも街灯のみとなり、一気に「寂しさ」が覆う――――6陣までダミー車両の放出は続いたが、「本命」が去った今、車を取り囲む者達の数は激減した――そして「本命」車両がヴィーナスタワーに到着した事がネットで周知されると、会場周辺に僅かに残っていた者達は、何処か悲しそうに肩を落とし、それぞれの「現実」が待つ居場所へと帰ってゆく――――。



 私は小さな窓から、一部始終を眺めていた――。

 「本命」を含め、全ての車両はダミー。