アイ・ドール


 ぼんやりとした間接照明の光が、意識の切り替わった脳と網膜に少しづつ光を照らして、心が現世界へとリセットされてゆく。


 それにしても、殺風景な空間――家を出て借りた部屋を見渡し、思った。「借りた」――全ては父の紹介とカネによって契約した住居。アルミニウムやステンレスの素材で構成された家具類が、より寒々しい印象を増している。


 加えて、さっきまで歌い踊っていた彼女達の所属するプロダクションに就職し、引き籠もりから脱し、社会復帰が叶ったのも父の後押しがあっての事だった――。



 眉をひそめた。世の中には、就職も叶わず、パートでこき使われ、毎日生きるのに精一杯な人々もいるというのに、私はのうのうとコネ入社を果たし、誰もが羨むアイドルグループの近くでの仕事にありついている。

 甘ったれで、自立できない自分――。


 いつものネガティブ思考が始まる。体育座りの格好で頭を埋め、出口の見つからない蟻地獄にはまってゆく――。



 時が経ち、ローテーション化されたネガティブ思考がようやく収まると、嫌な世界から抜け出せた喜びを、細めた唇から息を体内から吹き出す行為で体現する――。