店内が客で賑わい始める――誰かが、この店にアリスがいるとネットに書き込みをしたのだろう。


「えええっ――」


 店内に響く残念そうな声のアリスを宥め、私達は店を出た――。





 24時間、ドアマンが常駐するメインエントランスで、馴染みのドアマンに敬礼するアリス。仄かに表情を和らげるドアマン――二人の日常の挨拶なのだろう――。


 すっと振り返り、私に手を振ると、小走りでエレベータホールへと消えたアリス――。


 赤坂にありながら、緑に囲まれた丘の頂上に聳える45階建てのタワーマンションの最上階が彼女達の住まい――窓を頼りに、上に向かって数えてみる。


 5階、10階、11、12――無理ね。とても最上階の窓灯りなんて見える訳がない――。

 首も痛くなり、数えるのを諦めた。

 腕時計を見ると「今日」という日がもうすぐ終わろうとしている――。


 数時間後には、社長に報告しなければならない――何が起こり、どう解決したかを。


 再び空を見上げた――漆黒の空に、青白い満月が輝いている。


「これで良かったのよね――」

「私、このまま進んでも大丈夫よね――」