「あんな人達でも、アリスの親だからさ――それである時気になって家に帰ったんだ――けど、帰らなければ良かったよ――」
万希子さんとは「成分」の異なる涙が流れていた――。
「家に入った瞬間、いきなりの悪臭攻撃でさ、リビングなんか夥しい数の酒の瓶や大量の生ゴミと血を拭いたティッシュの山、脱ぎ散らかした服やらが散乱してて、昼なのにカーテン閉めきって、暗く、じめじめして気持ち悪い空間だった――」
「うぐぅ――って呻く様な声が聞こえてゴミ袋の山を見たら、その中にママが紛れててさ――顔を腫らして腕や足に内出血の跡、焦点の合わない腐った眼でアリスを見て、あんた誰って言うんだよ。自分の娘なのにさ、暴力と酒にやられてアリスを忘れたんだね――」
「ヘッって笑いやがってさ、酒瓶を赤ちゃんの様に後生大事に抱いて――狂ってる――そう思った」
諦めと、怒りが込められた声――。
「ここにアリスの居場所はもう存在しなくなったって悟ったよ――近所の冷たい視線も痛いしさ、さよならも言わず家を出て、お気に入りの場所だった河川敷に、体育座りで太陽が反射する川の流れを泣きながら眺めてた――」



