「もう、戻らない――」
アリスは僅かな貯えと着替えをバッグに詰め込み、家を出た――が、行く宛てなどない。寒い夜を幽体の様に彷徨い歩き、我に返ると父の勤めるスーパーの入口に立っていたという。
導かれる様に店内に入り、食品売場のとある商品棚の前で足が止まる――周りには誰もいない。手が商品に伸び、それをバッグに入れた――。
「罪の意識なんて――なかったよ――」
淡々と店を出た。
「これから、どうしよう――って歩き出した時、ギュッって腕を掴まれたんだ。誰だったと思うマイマイ――」
「礼子さんだったんだ――」
「社長が――」
「うん、でも怒るでもなくさ、アリスと万引きした商品、そっと棚に戻して店を出てアリスに言ったの――」
「行く所がなかったら、私の家に来なさい――――そして、アイドルになりなさい――って――」
「突然だったけど、温もりがあったよ、礼子さんの眼差しは――その夜から、礼子さんの家に住み、学校へ通った。礼子さんを怪しい人物なんて疑いもしなかった――」
「でもさ、何日たっても学校側が何も言わないって事は、パパとママは――」



