アイ・ドール


「アリスのパパとママだった人はね、皆が知ってる大手スーパーの社員でいわゆる職場結婚ってやつ――んで、パパだった人は出世してとある店の店長になった頃に外資スーパーに買収されてさ。ったく、タイミング悪いっつうの――それで、能力、成果主義が導入されてから二人は段々とおかしくなって――後は、お決まりのコスト削減の名を借りた人員リストラや賃金カットのオンパレード。二人は、店の売り上げ拡大や少ない人員のやり繰りで自分の数値目標を達成しようと、禁止されてる休日出勤までしてさ――だから、家族揃って何処かに出かける事なんてぱったりとなくなっちゃってさ、一人、家に残されたアリスの寂しさなんて気づいてもくれなかったよ――」


 言葉を挟もうとした私を、切ない視線で遮るアリス――。



「その内、会話もなくなっちゃってさ、勝手に仕事に行って、勝手に帰って、別々の部屋で寝て、起きて家を出る――その繰り返し。朝、テーブルに500円玉置いてあるの――ふっ、要はこのカネで今日を生きろって事――ふぅ、情けなくて涙が出ちゃうよマイマイっ。全くさ、アリスはただ普通の家族の絆と温もりが欲しかっただけなのに――――」