恐る恐る店内を仕切っている暖簾をめくる。すると各方向から視線が一斉に若葉に向けられてしまい、いたたまれなない…と、すぐに背を丸くした。

「おかえりー!コーヒー出来たよー。こちらへどうぞー」

『きょうへい』さんがカウンターの木製の椅子をスーっと引いて、若葉へ座るようにと導いた。

「ありがとうございます……」

椅子に向かう若葉の一挙手一投足を、怪しげにじーっと見つめる黒髪のツンツン頭の男性が恐らく先ほどの叫び声の主であろう。

「こ、こんばんは。お邪魔しています」

歩きながら若葉が挨拶をすると、一気にかぁーっと顔が赤くなる彼。不思議に思いながらも、そっと椅子に腰かけた。

カウンターテーブルの上に置かれていたのは、白いカップに注がれたコーヒー。ゆらゆら揺れる湯気と一緒に甘い香りも立ちのぼっていて、自然と大きく息を吸い込んだ。

「いただきます」

両手を合わせてから、カップに手を添えると『きょうへい』さんが「おうっ」と言いながら隣の椅子に腰かけた。

ふーふーっと息を吹きかけ、一口すすれば、若葉はパチッと目を見開いた。

「おいしい!」

喉を通る液体がみるみる内に体の芯をじんわりと温めていく。緊張で強ばった顔の筋肉も緩み、笑顔と共に口から思わず溢れた感想。

そんな様子を隣にいる『きょうへい』さんは安心したように頷いて、目を細めた。

「それはよーござんした!」