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細長い金色のドアノブを回して、ゆっくりとトイレの扉を閉めた。

「ふぅー……」

トイレの鍵をかけ、上矢さんから貸してもらったラグランTと上下セットのスウェットをトイレの床に置くと自然と大きく漏れた一息。

「どうしよどうしよどうしよ……。迷惑かけてるよね……私。とにかく着替えて、コーヒーを頂いたら、すぐにお暇しなくちゃ」

よしっと気を取り直して、肌にぴったりと張りつくワンピースをどうにかこうにか脱いでいく。

お洒落なカフェのトイレで下着姿になったのは若葉が初めてに違いない。ほとほと自分の状況に呆れながら、上矢さんの服に袖を通した。

ほんわりと漂うフローラルの洗剤の香りに包まれ、うっとりと落ちついていた時。

背後から金属音が激しくぶつかり合う音が響き、振り返るとドアノブも生き物のように上下に揺れていた。

きゃー!ごめんなさい!ごめんなさい!落ち着きません!と、人様の家のトイレで気を抜いていた自分を反省して、扉の向こうにいるであろう方に心の中で謝罪した。

「ねぇー、誰ー?早く出てくんなーい?漏れちまうってー」

あの店内にいた誰とでもない初めて聞く男性の声に、他にも店員さんがいたんだと理解し、すぐに若葉はトイレの壁に向かって返事をする。

「ご、ごめんなさい!着替えが終わったので、今すぐ出ますね?」

返答はしばらく待っても返って来ず、代わりに聞こえたのは店内の方へバタバタと走り去る足音だった。

扉に耳を近づけ聞き耳を立てていると深夜の店内中に雄叫びが轟いた。

「女がいるんですけどーーー!!!」