ある程度雫が滴り落ちなくなった後、『きょうへい』さんの後に続いて店内へ足を踏み入れた。水分をたっぷり吸収したブーツの足音はいつもより低く聞こえた。

店内を見渡すとダブリエを着た店員と思われる男性が3人。

「こんばんは!お、お邪魔します」

若葉は今更ながら、この状況はどうしたものかと思いつつ、持っていたタオルをぎゅっと握り締め、頭を勢いよく下げた。が、店内は静かなまま。

頭を上げるタイミングも分からなくなり、タオルを握り締める指先が白くなっているのを見つめるしか出来なかった。

「おいおいおい。あのさ、君たち。お客様ですよー?挨拶はどうしたのかなー?…あ、頭上げていいよー?ごめんねー、変な奴らばっかで」

「え、あ、あははは…」

『きょうへい』さんに助けられた若葉はゆっくり頭を上げたが、「変な奴ら」の返答に困り苦笑いする他なかった。

「営業時間は過ぎている。不必要なサービスはしないだけだ」

ぴしゃりと言い放ったのは、扉の近くに位置するレジに凛と立つ綺麗な黒髪の男性。売り上げなのだろうか、こちらを見ることなく札束を数えている。

「わぁー!よく見れば女の子だぁー!」

大声を出したクルクル金髪パーマの男性が、若葉に向かって軽やかなスキップをしながら近づいてくる。

「よく見れば」の真意も気になったけれど、彼の背後にふんわりとしたお花が見えた気がして2、3度頭を振っていれば、あっという間に抱きつかれた。

「きゃー!!濡れますよー!!」

叫びながら若葉が瞬時に両手で突き離せば、思うより簡単に離れてくれた。当の本人はきょとんとしている。かと思えばみるみる内にパァッと顔が綻んだ。

「あはは!かわいいー!僕が濡れるから離れた方がいいんだってー!じゃあ、今度は濡れてないときにね?」

無邪気ににっこり笑って首を傾げる様子は子供のようで吊られそうになるが、妙齢の男女が抱き合うのはやはり違うと思い、またもや苦笑いするしかなかった。