次第にはっきり大きくなっていく歩道橋の上には大きく手を振る長谷川さん、未久さん、健太さん、哲平さん、鮫島さん、奈緒子先生、翔さんに祥さん、ちえりさん、さらには商店街のおじさんやおばさん達の姿が確認できる。

いつの間にか運転手さんはギリギリのスピードまで落としてくれていた。

「えっ、嘘!?」

数人が歩道橋の中心に駆け込んだかと思えば、その面々にまたもや驚かされる。

ついさっきお別れしたばかりのクロッカスのみんなだったのだ。
どれだけ凄いスピードで追い抜いたのだろうか。

若葉が窓から手を伸ばし応えようとするも、走り続けていた車はちょうど歩道橋の下に差し掛かった。

急いで後方の窓へ体を移動させ、まじまじと歩道橋を見上げた。
すると、みんなも反対側へ移っていたようで、笑顔で手を振っていてくれている。

そして次の瞬間、何か白くて長いものが素早く面積を広げながら落ちた。

そこに書かれていた文字を読んだ瞬間、堪らなくなった若葉は座席のクッションに顔を埋めた。

「……ううぅぅぅっ、うわあぁぁぁぁん!!!」

「わ、若葉様!?」

若葉の異常な泣き声に心配して声をかけてくれ運転手さん。
だけど若葉は嗚咽を繰り返すだけ。

歩道橋から提げられた弾幕には大きな文字で



"若葉ちゃん、いってらっしゃい!"



と記されていたのだ。

少し前まで居場所がなく途方に暮れていた若葉にとって、これほど嬉しい言葉はなかった。

温かくて優しい時間の流れる場所が、いつだって帰ってこれる場所になるだなんて、あの3月1日の若葉には想像できるはずもない。

「行ってきます……、……行ってきます、行ってきます……」

あまりに嬉しいサプライズに胸を打たれ、もう一度歩道橋を見ることが出来ないまま、若葉はいつまでもいつまでも返事を繰り返していた。

若葉のその姿を写真の中の大好きな人達と6輪のクロッカスが優しく見守っていた。



END