若葉が車の後部座席に座ると、オーナーさんが窓へと歩み寄ってきた。すぐに気づいてくれた運転手さんはボタンを押し、窓ガラスを下ろしてくれた。

「若葉ちゃん。この封筒の中にこの間みんなで撮った写真が入ってるわ。もらってちょうだい」

「わ!嬉しいです。ありがとうございます!」

白い封筒を大事に両手で受け取り、心の底から感謝の気持ちを述べた。オーナーさんはもう癖になってしまったのか若葉の頭を優しく撫でてから、1歩また1歩とゆっくり後ろへ下がった。

「よろしいですか?」

「はい、お願いします」

だんだんと上がっていく窓ガラス。若葉はその間ずっと外のみんなに向かって手を振り続けた。何度も何度も。

アクセルが踏まれ、車は走り出した。
スモークガラスの向こうに見える景色はくすんで見える。

数分が経ち若葉が改めて座りなおした途端、ドッと別れの辛さが襲ってきた。
これでも我慢してはいたけれど、寂しいものは寂しくて、胸に熱いものが込み上げてきた。

その時、膝に乗せていたクロッカスと白い封筒が目に入った。
もうすでに会いたい衝動を紛らわせられるかと思い、若葉は白い封筒を丁寧に開いてみた。

そこには確かに1枚の写真が入っていて、取り出すと何やらするりと小さな紙切れが床に落ちた。

拾って見てみれば、『上!』と書かれている。
…うえ?
首を傾げて意味を考えていると、突然運転手さんが叫んだ。

「若葉様!見てください!歩道橋!」

「どうしたんですか?」

あまりに驚いている姿が心配になり、動悸を早めたまま後部座席から前方へと身を乗り出し、運転手さんが指差す正面を目を凝らして確認する。

「わっ!すごい!」

若葉は信じられない光景に思わず感嘆の声を漏らした。