しばしの間、たった4ヶ月の間に起こった濃密な出来事の思い出話に花を咲かせていると、店の正面の路肩に黒の高級車が停車した。

会話が中断され、一同の注目が注がれる中、運転席から降車してきたのは先日も会ったおじいちゃん直属の運転手さんだった。

「若葉様、お迎えにあがりました」

「えっ?……確か、おじいちゃんにはお断りしたはずですが……」

頭に被っていた帽子を取り、胸に当てながら話す運転手さんに遠慮がちに訊ねた。

「その会長からのご命令です。若葉様の到着に痺れを切らし、私に迎えに行くようにと。……待ち遠しいのか早朝から屋敷の周りを徘徊していましたよ…ふふっ」

今朝のおじいちゃんの様子を思い出しているのか、口元に拳を当てた運転手さんは口の端から笑いを漏らした。

「徘徊って……他に言い方ありそうなもんだけどな」

「なかなか言う従者だな」

「一度殻を破れば、孫溺愛爺さんだもんな。緊張感もそりゃ緩くなんだろ」

若葉の背後ではそんな会話がされていて、なんだかこちらまで気恥ずかしくなる。

「そうでしたか。わざわざすみません…。今、行きますね」

若干背を丸めながら若葉がそう告げると、運転手さんは「承知しました」と凛々しい姿に戻って返事をした。気を利かせてくれたのか、颯爽と車内へと戻っていく。

その姿を見届けてから、若葉はくるりと振り返った。

「……それじゃあ……また。本当にお世話になりました」

両手でクロッカスの花束を包みながら、深くお辞儀をした。
ほんの少し語尾は潤んでしまった。
それを払拭するように、顔を上げたときには満面の笑みを作った。

クロッカスのみんなは何も言わずに温かい眼差しをくれた。
その優しい空間に言葉はいらなかった。