「終わったようね」

これまでの様子を少し離れた場所で見守っていたオーナーさんが、挨拶を済ませたタイミングで歩み寄ってきた。

すると、オーナーさんは羽織っていた上品なジャケットの内ポケットに忍ばせておいたらしい一輪の花を取り出した。

……黄色いクロッカスだ。

オーナーさんに続くように、クロッカスのみんなもポケットから花を抜く。

「まだまだまだまだ伝えたいこといっぱいあるよ?……けど言葉にしていけば、きっと何日もかかるから……また今度たくさんお話ししようね?」

花を持ったまま両手を目一杯広げ、伝えたい気持ちの多さを表した誠吾くんは約束の印に、若葉に向かって右手の小指を突き出した。

躊躇うことなくその小指に自分のそれを絡ませれば、どちらからともなく唄を歌った。

「ゆーびきりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーます、ゆびきった!」

小指同士が離れると共に目の前に差し出された6輪のクロッカス。
それを端から1輪ずつ感謝の言葉を紡ぎながら受け取っていく。

最後にオーナーさんのクロッカスをもらい、若葉は大切に胸の前で束ねた。

枯れてしまう前に、と瞼の裏に焼き付けていると、オーナーさんは花束が潰れないよう注意しながら若葉の頭を両手で引き寄せた。

「若葉ちゃんを信じることが出来て、クロッカスの運命は大きく変わったわ。だから今度は私達を信じて頂戴。若葉ちゃんには辛くてどうしようもなくて折れそうな時にも、支えてくれる6つの活性剤がいること忘れないで」

至近距離で若葉を見つめながら、一言、一言に想いを込めるように贈ってくれた言葉。

その言葉の威力は、痺れとなって言い様のない素早さで足下から全身を震わせた。

本当に無敵になった気がして、若葉の体は熱い決意に燃えていく。

誠吾くんと約束した、また今度。

それがあることは当たり前のようで、当たり前じゃない。

いつ、どこで、何が起こってもおかしくないことを知っていながらも、朝が来て、夜が来ることの有り難みがやっぱり薄れてしまう。

だから思い出す。
花とお店、2つの意味になったクロッカスを。

"私を信じて"

クロッカスのみんながくれた花言葉に恥じない生き方をしていきたい。