「ずるいな。抱きついても許されるキャラの三馬鹿くん達って」

「なんだと!?恵介!最近はお前が一番リュックみたいに引っ付いてたろ!」

橘さんのぼやきに、食って掛かった琢磨くん。

そうだそうだ!舐めた人が言う言葉じゃないぞ、と若葉は内心、激しく琢磨くんに同意した。

「僕は今生の別れみたいな空気に乗せられて恥ずかしいことは言わないよ?きっと、若葉ちゃんが来る来月には恥ずかしいネタになってると思うよ。……特に琢磨のセリフね」

"来月"

またの来訪を橘さんが許してくれているだけで、奇跡のような宝物に思える。

橘さんの楽しげな予想はいとも容易く想像することが出来て、若葉の心持ちも晴れやかになった。

そういうちょっとした気遣いを自然にさらりと出来るのが橘さんのすごいところだ。

攻撃された琢磨くんは知ってか知らずか、「んだとぉぉぉ!!?」と唸り、橘さんに怒りをぶつけているけれど……。

「雪村さん。君には特別に格安の値で料理を提供する。こんなことを俺に言わせるのは、君くらいだ。自信を持って花屋修行するといい」

「金取るのかよ。格好ついてねぇよ」

「てゆうか、励まし方ヘタクソー」

「素直に頑張れって言えないかなめん、かわいい~」

恭平さん達からやいやいと、からかわれた桐谷さんは珍しく頬を紅潮させて咳払いをした。

「タダより高いものはない。雪村さんが余計な気を遣うことになるだろうが。……素直じゃないのは、今に始まったことじゃないだろ……」

最後は照れ臭そうに語気を弱めた桐谷さんだけれど、律儀に恭平さん達の言葉に返事をした辺り、桐谷さんの真面目な性格がうかがえる。

「ありがとうございます。その時はおじいちゃんも連れてきますね」

「あぁ。君の爺さんには、俺は嫌われたままかもしれないが…な…」

「そんなこと…!」

「あの見合い話はそのまま受ければよかったな」

「えっ?」

桐谷さんは冗談なのか本気なのか分からない口調で話し、見惚れてしまうような接客用ではないスマイルを浮かべた。

その笑みに、何故か他のみんなは恐怖に近い表情で青ざめ、わざとらしくも震え上がっているのだった。