「………………ごめん、若葉ちゃん。こんな日が来ることは前から分かってて、すっげぇいろいろ言いたいこと考えたんだけど……。俺、やっぱ無理だわ!……全然しっくりくる言葉が見つからねぇんだ……」

努めて明るく笑いながら話す中、恭平さんの目は赤く充血し、たくさんの涙が頬を伝い、顎で1つの大きな雫になって落ちた。

何もいらないと、謝ることないと、ぶんぶんと頭を横に振った。噴き出す感情は喉を熱く焦がしていく。

「疲れたら……いや、疲れてなくても、いつでも甘いコーヒー淹れるかんな?遠慮すんなよ~~?」

そうか、行かなきゃ飲めなくなるんだ、なんて改めて自覚し、悲しくなった若葉。けれど、そんな思いすら包んで消してくれる魔法のような恭平さんの大きな手のひらで、グシャグシャと激しく頭を撫でられた。

「もうっ!」

髪を整えながら、わざと膨れると、一緒になって手櫛をしてくれたのは誠吾くんだ。目が合った途端、クシャっと歪んだ誠吾くんの表情はすぐに見えなくなった。

「……ふふっ、苦しいよ。誠吾くん」

「やだ。やだ、やだ、やだ!!意味分かんないよ。別に離れなくてもいいじゃない!ここからでも花屋さんに通勤出来るでしょ?ね?」

抱きつきながら早口で必死で残って欲しいと懇願する誠吾くん。

いつだって無邪気で、子供がそのまま大きくなったような純真な誠吾くんの澱みのない直球の願いに応えられないことが、ひどく胸を締め付けた。

「ごめんね、誠吾くん。いっぱい、いっぱい、いっぱい考えたけれど……おじいちゃんを誤解し続けてきた取り戻せない時間を、これからはおじいちゃんの側で埋めていきたいんだ。……もう、おじいちゃんを1人ぼっちにさせたくないの」

「………………」

何も答えてはくれなかったけれど、その代わりに誠吾くんはゆっくりと体を離した。

金髪でふわふわの髪は心なしか、いつもより広がってはいなくて、誠吾くんの心情を表しているようだった。

「……若葉ちゃんのお父さん達、もう見えないや。……きっと安心したからかな」

言い終えた誠吾くんは頭を上げ、眉をハの字にしながら精一杯、微笑んでくれた。

間違った選択じゃない。

それを誠吾くんの口から教えてくれた。

理解を示してくれた様子に思わず母性本能をくすぐられ、抱き締めたくなった衝動を堪えることが大変だった。