「ご馳走様でした…」

「お粗末さまでした。お口に合ったかな?」

「えぇ、はい…おいしかったです」

「そうだろう、そうだろう!千春ちゃんのご飯はすんごくおいしいからなー!トマトも自家栽培してるんだぞぉ」

何故か悠一さんが大きく頷き、鼻高々に言う。そうは言いながらも、皿の上にはミニトマトだけが残されていた。

トマトから視線を外し、大きく息を吐き出すと食事中にずっとモヤモヤと考えていた切り出す台詞を喉元に準備する。

"やっぱり帰ります。いろいろとありがとうございました"

これは半分は自分が常識ある人間だと示すため。もう半分は悠一さんの意思を確認するため、と随分ズルイ下心を滲ませている。

それを悠一さんの座る位置のテーブルの縁を見ながら吐き出そうとするも、寸でのところで悠一さんの言葉に遮られた。

「よしっ!今日は火曜、定休日!家具屋へゴーゴーだ!」

「へっ?」

「いいなぁ、若葉も伊織くんの家具選びたい!」

「俺?」

「若葉は幼稚園でしょー?若葉の部屋の壁紙も買ってくるから、我慢してね?」

「はーい、ママ…」

しょぼくれながらも理解した可愛い若葉ちゃんを尻目に、悠一さんにおずおずと尋ねた。家具屋とは、自分のためなのだろうか?

「あ、あの…本気だったんですか?」

すると悠一さんは、伊織の中の不安や懐疑心ごと吹っ飛ばすようなカラッカラの笑顔で断言した。

「もう当然じゃない!僕は嘘をつかないことだけが取り柄だから。僕を信じてよ!」

"私を信じて"

クロッカスの花言葉が、悠一さん自身の座右の銘であることは住み込みを始めて3週間ほどした頃に知ることになる。

千春さんが実は雪村財閥の娘さんであることや、2人が駆け落ちして結婚したこと、鮫島さんという方と旧知の仲であることも、だんだんと分かっていった。