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「いらっしゃい。先日は大変失礼を……申し訳ない」
「お忙しい中、お時間を作っていただき感謝します」
若葉は再び大島グループの秘書室へと訪れていた。
迎えてくれた鮫島さんは、随分と印象が変わっていて穏やかな笑顔の中に申し訳なさが見え隠れしていた。
鮫島さんの肩越しには、向かい合わせに置かれたソファーの前で立っている健太さんの姿が見えた。
若葉が一礼して健太さんを正面にする形でソファーに腰かけると、すぐに扉をノックする音が聞こえた。
「あっ…私が」
そう言うと目の前の2人は理解した眼差しで小さく頷いてくれた。やはり親子だ。当然だけれど、とても似ている。
扉の前にいる人物を悟っている若葉は、一度肺の中の余分な空気を吐き出した。
ドアノブを引くと、相変わらず怪訝な顔を標準装備し、若草色の和服を着たお爺様が立っていた。
「ご足労感謝いたします、お爺様」
「……今日はあの桐谷の愚息はいないようだな」
先制パンチすら読んでいた若葉はグッと堪え、笑顔を作った。
「その話はまた……。今日はお爺様に会って頂きたい方が、あちらで待っていらっしゃいますから」
話を逸らすと共に、手の平でお爺様の視線を導いた。すると既に立っていた鮫島さん達は深く礼をしてくれた。
「ふん、……で?こんなとこに呼び出すほど大事な話とはなんだ?若葉」
杖をつきながらソファーへ近づくお爺様は結論を急いだ。
話なんて本当はない。
これはただのズルイ賭けだ。
なんとか時間を稼がなくてはと、ごくりと生唾を飲んだ。
